『I vvonder』制作のウラ側 〜色校正編〜
2025年2月22日。
弊社の出版レーベル「YAMADA Book Publishing(略して「YBP」)」より、第一弾となる書籍『I vvonder』が発売されました。
本書は絵描きとして、いのちの流れと好奇心をテーマにドローイングやペインティング、刺繍を用いた作品を数々発表されてきた堀米春寧さん初の作品集です。
装幀デザインは、YBPのロゴデザインも手がけていただいたグラフィックデザイナーの脇田あすかさんに担当していただきました。
今回は『I vvonder』がどのようにして生み出されたのか、その制作の裏側をご紹介いたします。

画集が生まれるきっかけ
『I vvonder』が生まれるきっかけを著者・堀米春寧さんにお聴きしました。
——2023年秋、フォトブックを中心とした販売イベントに参加したのがきっかけでした。お声がけいただいた時は、絵描きなので場違いではないかと少し不安になりましたが、参加を決意しました。
とはいえ、そのとき自分の書籍はなく、本を作る時間的余裕もなかったので、二晩徹夜し、これまで描いた絵を糸で綴じた手づくりの本 『孵化思議』 を仕上げました。『I vvonder』巻頭にある卵の絵は、その本から「孵化」したことを象徴しています。
装丁や紙の質感までこだわり抜かれ、洗練された本が並ぶ会場。そんな中、『孵化思議』は「本」と呼んでよいのだろうかと思うほど素朴なものでしたが、ひとりの学生の方がじっくり眺めた末に買ってくれ、心が震えました。
作品を通じて私と出会い、心を動かされ、選んでくれたのです。もっと作品を通じて人と出会いたいという想いが、強く芽生えました。
「画集を作りたい、それも本、精通したプロとともに制作したい」
イベント後、色んなご縁が重なって印刷会社である山田写真製版所さんが立ち上げた出版レーベルYBPで初の作品集を出していただくことになりました。
『孵化思議』がまさに孵化し、『I vvonder』として羽ばたいていくその過程をご一緒できたこと、そして出版というかたちでお届けできたことは、私たちにとってもかけがえのない経験となりました。
用紙選びが仕上がりを左右する?
1月某日、著者・堀米春寧さん、デザイナー・脇田あすかさんが弊社へ来社され、校正戻しがおこなわれました。
用紙ごとに絵柄を抜粋した本機校正(実際の紙とインキ、印刷機を使用して行うテスト印刷)と残りのページは簡易校正(印刷物をシミュレーションした出力紙)の双方を見比べながら、本番印刷に向けて絵柄に応じた色味の方向性を擦り合わせます。

脇田さんの「堀米さんの作品の良さを増幅するように、絵によってさまざまな用紙を使いたい」という希望を元に、コスト感や限られた校正回数・スケジュールを考慮した上で本文用紙には「モンテシオン」「オーロラコート」「b7トラネクスト」「OKブリザード」「OKアドニスラフW」の計5種類の紙が選定されました。
紙の特性ごとに計算された製版・印刷設計は、本の仕上がりの美しさに大きく影響する重要な要素のひとつです。

黒が印象的なスリーブ
今回のスリーブは本来糊付けする部分を糊付けしないことにより、
『I vvonder』の世界へといざなわれる扉を開けるような装丁となっています。
色彩は淡いピンクの背景色と濃い黒のコントラストが印象的です。
西谷内PDに聞いたところ、元の原画では線の濃淡が絵柄によって異なっていたところを堀米さんからの「濃淡の差を出したくない」というご要望から、羽根の部分など調子を出したいところは生かしつつも、その他の線画部分では濃度が均一になるように画像を調整されたそうです。


めくると光る?!
プロローグから1章に続くページを読み進めていくと、同じ絵柄が連続して続く、まるでパラパラ漫画のようなページ構成があります。明・暗の順でページが続き、最後に暗闇の中で白く光っている目が印象的です。それらの構成は、堀米さんのアニメーションへのリスペクトから生まれました。
色校正の際には特に印象的な「光る目」の見せ方を、西谷内PDがパソコンでシミュレーションをしながら微調整を繰り返しました。



糸選び
堀米さんの作品を見開きで大きく見せるため、本書の製本には「コデックス装」を採用しました。コデックス装とは本来付いている背表紙が無い「背が剥き出し」になった製本です。本が180度開き、一般的な「背表紙がある」製本以上に掲載作品を大きく見せることが出来ます。
さらに「コデックス装」のもう一つの特徴は本来、背表紙で隠されている製本の「かがり糸」が見えることです。
「かがり糸」とは製本時に本文を綴じる為に用いられる糸です。
通常は白い糸を使用することが多いのですが、今回は作品集のイメージに合わせて糸色を選定。決定した赤色のかがり糸は作品集に素敵なアクセントを加えています。


表紙・本文・かがり糸ともう一箇所、赤色が印象的なこだわりポイントがあります。それは目次ページを開くと封入されている、I vvonderの世界への“招待券”です。
堀米さんは「読者のみなさんを“好奇心の旅”に連れて行きたい」という想いから、今回の画集には必ずチケットを入れたいと考えていたそうです。
本書を手にした人は、この招待券を手にこれから始まるI vvonderの旅に期待感を覚えるはずです。

いよいよ印刷へ
次回はいよいよ「印刷」の現場の話をお届けします。
ちょっとマニアックな内容になりますが、仕上がりを左右する重要な部分。印刷好きの方は、ぜひ後編も覗いてみてください。
読み終えたころには、実物を手に取って見てみたくなるかもしれません。
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