2025年6月9日
プリンティングディレクション

本物を未来へ残すために──文化財保存を支えるソルグラフ

名画や歴史的文化財は、時代を超えて人々に感動を与えるかけがえのない存在です。
しかし、展示や移動、紫外線や温湿度の変化などによる劣化のリスクは避けられません。
そうした中、高精度のレプリカはオリジナル作品の風合いや質感を限りなく忠実に再現しながら、本物を過酷な環境から守る手段として用いられています。

弊社のデジタルアートプリント「Solegraph(ソルグラフ)」は、これまで何度もレプリカとして文化財保存の役割を担ってきました。ここでは文化財の保存に寄与し、未来への継承を支えるソルグラフを、棟方志功筆の3作品の事例と共にご紹介します。

陰影と質感を極めた襖絵再現

光徳寺襖絵 棟方志功《華厳松》レプリカ (6面 634×169cm)

富山県南砺市にある、棟方志功とゆかりの深い躅飛山光徳寺には、多くの棟方作品が残っています。
企画展「生誕120年 棟方志功展 メイキング・オブ・ムナカタ」への出展に際し、一年間にわたり不在となる現物の襖絵の代わりとして、レプリカ制作のご依頼を受けました。

「華厳松」は6面の襖絵からなり、スキャニングすることは不可能なため、まずは撮影から行いました。
実際の襖は3枚の和紙が貼り合わさっていましたが、撮影したものはライティングにより影が飛び、一枚ものに見えてしまいました。そのため、紙の重なりによって生じる微妙な陰影を再現することで、より自然で実物に近い仕上がりを目指しました。

和紙の重なりも忠実に再現

校正作業は、実際に光徳寺様を訪ねて何度も行いました。現場の光の具合や展示環境が作品の見え方に大きく影響するからです。オリジナルとテスト出力を並べて比較し、色味や質感がオリジナルに近づいているかを丁寧に確認しました。特に墨のにじみや筆致、細かな色味の再現には徹底してこだわり、繊細な表現を追求しました。

現地にて、オリジナルとテスト出力を並べて比較

金を再現する繊細な調整と用紙選び

青森浅虫温泉・椿館所蔵 棟方志功筆《親子鯉之図屏風》レプリカ仕立て(345×155cm)

青森県浅虫温泉にある、棟方志功ゆかりの宿・椿館にある「親子鯉之図屏風」。改装リニューアルオープンに合わせて、傷みの激しいまま飾られていた金屏風のレプリカ制作をご依頼いただきました。
こちらの作品も「華厳松」同様、分割での撮影を行いました。

一番苦労したのは全体のトーンを均一に整える工程でした。というのも、撮影時、光の反射によって金が白っぽく飛んでしまったり、逆に暗く黒く見えたりと、均一であるはずの金の調子が微妙に異なってしまったからです。悠々と泳ぐ鯉も、光が反射して墨が弱く見えてしまうなど、細部の表情を保つための調整にも神経を使いました。

4分割された画像をそれぞれ個別に調整し、さらに全体が自然に繋がるよう、時間をかけて丁寧に仕上げていきます。最終的には1枚の作品として違和感なく見えるように整えることで、オリジナルの迫力や美しさをそのまま再現しています。

オリジナルを撮影したもの。光の影響で同じ金でも見え方が異なります

また、用紙の選定にも非常に頭を悩ませました。
最初に金の紙素材を探して取り寄せましたが、オリジナルの上品な金とは違いキラキラし過ぎていました。マット紙は光沢がないので微妙な金ぽさは出ない。かといって光沢紙では、反射すると色が飛んで金屏風に見えなくなってしまいます。試行錯誤の結果、マットでもなく、白く飛んだりもしない「ユポ」という用紙に決定しました。

ポジ原稿から甦る色彩

棟方志功《四天雄飛の図》レプリカ仕立て(各 93×178cm)

この「四天雄飛の図」は、昭和25年に棟方志功が富山県福光中学校の生徒のために描いたもので、現在オリジナルは福光美術館に所蔵され、一般に公開されています。もともと飾られていたレプリカが経年劣化したため、南砺市誕生20年プロジェクト市民活動応援事業として新調することになりました。

こちらはオリジナルを撮影したポジ原稿があったため、それをスキャンし、色の調整を行いました。ポジ原稿とはいえ、そこに映る作品には実物とは異なる濃淡が出てしまっており、調整が必要です。
本作品や、棟方志功の色感に詳しい方々のアドバイスを参考にしながら、何度もテスト出力を繰り返し、オリジナルに近い自然な色味を再現することができました。

完成したものは2024年9月に無事福光中学校に寄贈され、同校の図書室で生徒達を見守っています。
オリジナルの作品は、保存や安全の観点から、学校に展示するのは難しいものです。精密に再現されたレプリカだからこそ、こうした身近な場所での展示が可能になり、次世代に文化財の大切さを伝えていくことができます。

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文化財を未来へと受け継いでいくためには、高い技術と丁寧な取り組みが欠かせません。
私たちは、ソルグラフを単なる複製技術にとどめることなく、「本物の価値」を次の世代へつなぐ架け橋として活用していきたいと考えています。
これからも、芸術文化を守り伝える一助となれるよう、確かな技術と真摯な姿勢で取り組んでまいります。


事例集はこちら
光徳寺襖絵 棟方志功《華厳松》レプリカ
青森浅虫温泉・椿館所蔵 棟方志功筆《親子鯉之図屏風》レプリカ仕立て
棟方志功《四天雄飛の図》レプリカ仕立て

ソルグラフとは?
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